【医師に聞く】妊娠中に眠れないときの対策は?

妊娠中はいろいろな変化があらわれます。身体はもちろん、気持ちや生活のリズムなども変わっていく時期。「眠れない」というお悩みを持つ方も少なくないそうです。そこで、三楽病院の産婦人科部長、中林稔先生にその原因と対策について、妊娠初期・中期・後期別に伺いました。
妊娠したら体内のホルモンが急変! 眠れない原因になることも。
—妊娠することで、どのような睡眠の変化が起きますか?
妊娠中は、眠れなくなったり、逆に眠気が強くなったり、睡眠も変化します。その原因の1つが、ホルモンの変化です。
通常女性は、初経から閉経まで月経のサイクルに合わせて、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)という2つの女性ホルモンが周期的に変化しています。
それが、妊娠すると、周期的な女性ホルモンの変化ではなく、妊娠期特有のホルモン分泌になります。これまでとホルモンバランスが変わることで、不眠に悩まれる患者さんは意外と多いんですよ。
「つわり」「胎動」「大きなおなか」……眠れない原因も変化。
—妊娠の初期・中期・後期それぞれの不眠の原因とその対策は?
妊娠中の不眠の原因は、妊娠の時期によっても変化していきます。もちろん、個人差もあるので全員に当てはまるというものではありません。心あたりがあれば、参考にしてみてください。
●妊娠初期(〜15週)
これまでのホルモンサイクルから変化してすぐの時期なので、それが原因となって不眠になる場合が多い時期です。また、「つわり」で、気持ちが悪くて夜中に起きてしまって、十分に眠れないとお悩みの方もいらっしゃいます。
そして、妊娠して間もないこの時期は、心配事も多くなりがち。身体の中は変化しているのに、生活は妊娠前と大きく変わらない場合も多く、ストレスも抱えがちです。
できる対策としては、なるべくリラックスして過ごしていただくのが基本です。リラックス法は、人それぞれ。例えば、音楽を聴いたり、アロマオイルを焚いたり、ゆっくり入浴したり、おいしいものを食べたり。自分が心地よいと感じ、気持ちや身体がラクになることを選んでみてください。
「つわり」がひどい場合は、入院してもらう場合もあります。入院すると否が応でも規則正しい生活になり、「つわり」や不眠が改善する場合が多いんですよ。
妊娠初期には、身体にかゆみや発疹が出て、眠れないという方もいます。これは、アレルギー反応の1つ。
妊娠すると、赤ちゃんという自分以外の人がおなかの中にいる状態になるので、少し免疫力が上がります。その免疫の過剰反応が、発疹やかゆみとして出てくるのは、よくある生理的変化です。ひどくなければそのまま様子をみていただいて大丈夫でしょう。
辛くて眠れないときは、皮膚科を受診してもよいですし、産婦人科で薬を処方することもできます。
●妊娠中期(16週〜27週)
妊娠中期は、比較的安定していて、妊婦さんにとっては暮らしやすい時期。初期から引き続き、眠れないという方もいますが、眠りに対するお悩みが比較的少なくなります。
あえて挙げるとすれば、20週くらいから胎動がはじまるので、赤ちゃんが子宮の壁を蹴った刺激で起きてしまうという方はいらっしゃいます。赤ちゃんが元気な証拠ですね。
●妊娠後期(28週〜)
妊娠後期に入るとおなかが大きくなってくることで、寝づらくなるとお悩みの方が増えてきます。最終的には、赤ちゃんだけで約3キロ、胎盤や羊水を含めると5〜6キロ。5キロのお米がおなかの上にあることを想像すれば、かなり辛いと分かりますよね。患者さんからも「重くて苦しい〜」という声をよく聞きます。
おなかが大きくなる妊娠後期は、横向きになって寝ていただくと、仰向けよりかなりラクになると思います。できれば、身体の左側を下にして。身体の右側には血管が多く、右側を下にして血管が圧迫されると、血圧が下がって気持ちが悪くなる場合があるんです。
また、抱き枕などを活用して、ラクな体勢がとれるように調整するのも1つの手ですね。
頭痛や胃のムカムカで眠れないときは、「妊娠高血圧症候群」の可能性も。
—妊娠中の不眠で、注意しておいた方がよいことは?
例えば、頭が痛い、胃がムカムカして眠れないというときは、産婦人科を受診された方がよいですね。「妊娠高血圧症候群」という、妊娠中に血圧が上がる疾患の可能性があります。目のチカチカ、頭痛や胃のムカムカなどの症状があって、眠れないときは一度受診してみてください。
薬に頼る前に、リラックスすることを心がけて。
—妊娠中の睡眠導入剤などの服用は?
睡眠導入剤などの服薬の説明書では「その利益がリスクを上回る場合に推奨」とされています。妊娠中に睡眠導入剤を服用しても問題ない場合が多いでしょうが、私としては妊娠中に眠れないという不眠の症状だけで、睡眠導入剤などを乱用することは控えています。
ただ、例えば、精神科にかかるような疾患があって、薬を飲まないことの方が高リスクの場合は、睡眠導入剤ではなく安定剤を処方する場合があります。
妊娠中は、おなかの中の赤ちゃんの成長とともに、ホルモンバランスや身体が変化し、そして気持ちや眠りも変化していくものです。眠れないからといって焦る必要はありません。焦る気持ちがさらなる不眠を招くこともあるので、眠れないことを気にしないで、まずはリラックスすることを心がけましょう。
私は、眠れないときは、文字がズラッと並んでいて、やや難解な医学書を読むようにしています。学校の授業で眠くなるのと同じように、それが一番眠くなるんですよね(笑)。
眠れないときは、過去に買ったものの読破できていないという本を読んでみるのもおすすめです。
取材・文/武田明子
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三楽病院 産婦人科 部長
中林 稔(なかばやし みのる)
日本医科大学卒業、東京大学医学部附属病院助教・三井記念病院医長・虎の門病院医長・愛育病院医長を経て、年間400人前後の赤ちゃんの出産を支える、三楽病院の産婦人科部長に就任。診療のみならず、学会・各地講演をはじめとする医学の普及活動を行う傍ら、教育にも幅広く従事。2008年には中林助産師学院を共同設立し、自ら講師を務める。
三楽病院:http://www.sanraku.or.jp/index.html
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