【医師に聞く】不眠の悩みは漢方で改善できる? 後編

不眠症の患者さんに対して漢方薬も取り入れながら治療にあたっている、やまでらクリニックの山寺博史院長。漢方薬と西洋医学の睡眠薬との違いを伺った前編 に続いて、後編では不眠症に用いる漢方薬の種類や診察の方法、同時に見直したい生活習慣について教えていただきました。
前編の記事「【医師に聞く】不眠の悩みは漢方で改善できる? 前編」はこちら
不眠症に適応する漢方薬をはじめ、それ以外の選択肢も。
—不眠症の患者さんによく処方される漢方薬はありますか?
一般的には、不眠症に適応する漢方薬としては次のような方剤があります。それぞれの漢方薬が、入眠障害、中途覚醒、熟眠感、悪夢の改善などのどれか、あるいはいくつかに効果があることが知られています。
・大柴胡湯(だいさいことう)
・柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)
・黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
・半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
・抑肝散(よくかんさん)
・抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)
・酸棗仁湯(さんそうにんとう)
・加味帰牌湯(かみきひとう)
ただし、これらはあくまで医療保険適応のために分類されたものなので、不眠症の適応外でも不眠症に効果がみられる漢方薬もあることが広く知られています。
漢方薬については、その効能・効果が西洋医学の薬のように薬理学的に実証されていない段階にあります。漢方を取り扱っている国や地域は、中国、韓国、台湾、日本の4つがありますが、日本以外では、漢方医は西洋医学を使えず、東洋医学のみを取り扱います。一方、日本では東洋医学も西洋医学も扱うことができるので、日本での今後の研究や臨床に期待したいと思っています。
不眠症に漢方薬を処方するときには、四診でアプローチ。
—不眠症に対して漢方薬でアプローチする方法は?
まず、患者さんには、不眠を起こすような生活習慣を見直すことを考えていただきます。
その上で、患者さんに適した漢方薬を処方するのですが、日本漢方の診断では、以下の四診(ししん)を行います。
●望診(ぼうしん):身体の表面に現れる状態や舌の状態を観察する
●聞診(ぶんしん):臭いや声の調子などを観察する
●問診(もんしん):身体や精神的な不調を聞く
●切診(せっしん):脈や腹部の状態を触診することで調べる
漢方薬には副作用がでることがありますが、患者さんに適した漢方薬を用いないときにも副作用がでる場合もあるんです。漢方薬を用いるときには、日本東洋医学界の漢方専門医や認定医をはじめ、この四診ができる漢方をよくご存じの先生に診察していただくことが望ましいでしょう。病名だけでの投与は望ましくないとされています。
入眠しやすい状況・状態をつくる生活習慣も大切。
—漢方薬の摂取と同時に、不眠症の改善のためにできる生活習慣とは?
不眠の原因がはっきりとしている場合は、まずその原因を取り除くことが第一。しかし、原因を取り除くことが難しいことが多いのが現実です。また、たとえ原因が解決したところで、すぐにもとの眠れていた状態に戻るのが難しいということもあります。
まず、一般的にできることは、入眠しやすい状況・状態を作ること。これを睡眠衛生と言います。具体的には、以下が挙げられます。
①就寝前の2時間は安静を保つこと
精神的、肉体的に興奮した状態にあると交感神経が優位になってすぐに入眠できません。テレビなどは見ないで、静かでやや暗いところでリラックスして過ごすのがよいでしょう。
②夜間にはカフェインを含む飲料を避けること
カフェインには覚醒作用があります。カフェインを飲んでから20分以上後に効果が出て、その覚醒作用は4時間くらい続くと言われているので注意が必要です。
③就寝2時間前にぬるま湯に入ること
人を含めた高等動物は、体温が下がるときに眠気が出てきます。入眠したい2時間前くらいにぬるい温度のお風呂に浸かって体温を上げておくとよいとされています。熱い温度では神経が高ぶって逆効果です。
④できれば夜12時前には眠ること
人には睡眠覚醒リズムと体温リズムの大きく2つの群のリズムがあり、お互いに影響しあっています。体温リズムの群では、体温が明け方から上がり起床に向けて準備するため、寝るのが遅くなるとなかなか寝つけないことがあります。
⑤夜間の過度な運動は避けること
運動をすると身体の興奮が高まり、運動直後は入眠がむつかしくなります。運動したい人は入眠2時間前に軽い運動を取り入れるようにしてください。
⑥夜にたばこは吸わないこと
タバコに含まれるニコチンには、かなり強い覚醒作用があります。また、ニコチンには血管の収縮作用があり、心臓の血管を収縮させるために動悸が出現したり、心拍数が増加したりして入眠の妨げになることがあります。
⑦寝酒はしないこと
多量のアルコールによってもたらされる睡眠は自然の睡眠とは異なり、ノンレム睡眠やレム睡眠を減少させ、疲労感の回復を妨げ、記憶に障害を起こすことがあります。アルコールが切れてくる朝方には、レム睡眠が増加して夢が多くなることがあります。
⑧スマホやパソコンなどの使用は寝る前には避けること
特に若い人に多いのですが、スマホの使用やインターネットの寝床での活用は脳を興奮させて入眠を妨げます。また、夜に強い光を浴びることも眠気を妨げるとされています。
⑨夜の寝つきをよくするために、昼寝は午後3時までに30分間以内で
寝ていない時間が長くなれば、眠気が強くなります。これを睡眠圧が上昇すると言います。昼寝を多くとると睡眠圧が減少し、夜の寝つきが悪くなります。
⑩午前中に太陽の光を浴びること
午前中に太陽の光を浴びると睡眠物質のメラトニンの脳内からの分泌が抑制され、覚醒度が高まります。また、夜のメラトニン分泌が活発になり、入眠しやすくなります。
これらをすべて完璧に行うとすると難しいと思いますので、できる範囲で取り入れてみてください。
自分の睡眠時間が日本の平均時間より短いからといって、過度に心配することはありません。人によって睡眠時間は異なるものです。若い人はたくさん寝る必要がありますが、年齢が上がれば自然と睡眠時間は減少し、睡眠の質も変化してくることを覚えておいてくださいね。
取材・文/武田明子
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やまでらクリニック院長
山寺博史(やまでらひろし)
新潟大学医学部卒業後、東京医科歯科大学精神科・神経科入局(医学博士取得)。国内外の大学病院や研究機関などで研究や臨床の経験を積み重ねた後、2012年、東京武蔵野市の三鷹駅北口近くに「やまでらクリニック」を開設。一般の心療内科の治療に加え漢方薬による薬物療法や臨床心理士によるカウンセリングや漢方薬による薬物療法を取り入れながら、患者さんの目線で一緒に治療に取り組んでいる。
やまでらクリニック:https://www.yamadera-clinic.jp/page1
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