【医師に聞く】不眠の悩みは漢方で改善できる? 前編

日本人の5人に1人が睡眠に関する悩みがあると言われる現代。その悩みを漢方で改善したいという方もいるのではないでしょうか。そこで今回は、不眠症に漢方でも治療を行うやまでらクリニックの山寺博史院長に、現代人の不眠の原因や漢方を使った不眠の治療などについて教えていただきました。
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仕事の興奮や人間関係のトラブルも不眠の原因に。
—現代人の不眠の原因とは?
不眠の症状があるときは、まず原因があるかないかを考えます。原因が特定できない場合や、加齢などによる生理学的な変化が原因となることもあります。
不眠の症状の原因としては、外部環境によるものがあります。騒音もその1つ。この場合はその原因を解消することを提案します。
また、体に起因する痛みやかゆみなどが原因で、睡眠を妨げていることがあります。この場合はその治療がまず必要です。
タバコの吸い過ぎや、コーヒーなどのカフェインを含有する飲み物の摂り過ぎが原因になっていることもあります。以前、コーヒーを1日に何十杯も飲んでいた患者さんが、カフェインによる不眠だと気づかないで「眠れない」と訴えていたのですが、コーヒーの摂取を控えたら解消したということもありました。
一方で、最近多いのが、過重労働による不眠。外部環境による影響と区別できない点もありますが、仕事などによる興奮が夜間まで長引き、それにより入眠が妨げられている場合があります。
あとは、家庭的な問題、友だちや会社、学校での人間関係など、さまざまなストレスが原因になることもあります。最近は、お子さんつながりのコミュニティでのトラブルやストレスが原因となっている例もよく見られます。
そして、むずむず脚症候群、睡眠時無呼吸症候群、レム睡眠行動障害などで睡眠が妨げられたり、うつ病やその他の精神疾患で不眠の症状がでたりすることもありますね。
睡眠薬の減量・中止を試みたいという患者さんも。
—患者さんの睡眠のお悩みにはどのようなものが多いですか?
一般的には、どこの心療内科や精神科でも、過重労働や能力を超えた仕事内容で帰宅が遅くなり、入眠しようとしてもすぐには入眠できない患者さんが目立ちます。ひどいときには昼夜逆転になっている方も。また、十分に睡眠時間が確保できない方が受診されることもあります。ただ「夜中の2時に寝て、朝6時に起きないといけないから、睡眠の質を上げるために睡眠薬を出してほしい」と訴えられても、それは無理な話なんです。
また、睡眠の悩みを抱えている患者さんは、50歳前後の特に女性に多いように感じます。「最近寝つきが悪くなった」「眠りが浅い」「寝起きが優れない」「夜間にたびたび起きるようになった」などでお悩みです。全員がそうではないですが、加齢による睡眠の構造変化、つまり生理学的な変化によると考えられるケースが多く見受けられます。
睡眠時間は「7時間が目安」などと言われることがありますが、それは日本人の平均値が約7時間ということ。人によって必要な睡眠時間は異なりますし、加齢によって睡眠時間は短くなる傾向があります。例えば、睡眠時間が自分の理想より短くても、日中の生活に支障がなければ不眠症ではありません。そういうことをお話すると、納得されて安心される方もいますね。
最近、私のクリニックでは、睡眠薬をできるだけ用いないで不眠を治したいと希望される方だけではなく心療内科や内科で睡眠薬を慢性的に処方されている方が「なんとか睡眠薬をやめたい」と希望されて、来院されるケースも増えています。
睡眠薬の減量や中止をしようとしても難しい場合は、その人に合った漢方薬と併用して、徐々に睡眠薬を減量・中止するという方法を試みています。また、不眠症のカウセリングの一種の認知行動療法を併用することも行っています。
漢方薬では、不眠の原因となる病態の改善を目指す。
—不眠症に対して処方する、睡眠薬と漢方薬の違いとは?
睡眠薬は、本質的には鎮静作用を利用しています。それによって睡眠のリズムが整えば、減薬して中止できる場合もあります。漫然とした慢性的な投与は、睡眠薬の効果に慣れを来たし、効果が減弱したり増量が必要となったりして、依存を生じさせるリスクがあります。
一方、漢方薬では、不眠の原因となっている東洋医学的な病態(証)を改善することで、結果として不眠を改善することを考えます。気の巡り、血の巡り、水の巡りのバランスが崩れるといろんな症状がでてきます。不眠もその1つ。
巡りをよくしてバランスを整えて不眠を改善しようというのか漢方薬のアプローチです。不眠が改善すると漢方薬は必要なくなるので、薬による依存性はありません。また、身体全体のバランスをよくすることで、しばしば不眠以外の症状の改善がみられることもあります。
漢方薬の効果はすぐにあらわれないことがあり、早急に効果を期待する方には不向きな場合もありますが、生活そのものを改善したいという方には向いていると考えています。
漢方薬では診察の仕方も西洋医学とは異なります。後編では、不眠症に用いる漢方薬の種類や診察の方法、同時に見直したい生活習慣について詳しくご紹介します。
取材・文/武田明子
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やまでらクリニック院長
山寺博史(やまでらひろし)
新潟大学医学部卒業後、東京医科歯科大学精神科・神経科入局(医学博士取得)。国内外の大学病院や研究機関などで研究や臨床の経験を積み重ねた後、2012年、東京武蔵野市の三鷹駅北口近くに「やまでらクリニック」を開設。一般の心療内科の治療に加え漢方薬による薬物療法や臨床心理士によるカウンセリングや漢方薬による薬物療法を取り入れながら、患者さんの目線で一緒に治療に取り組んでいる。
やまでらクリニック:https://www.yamadera-clinic.jp/page1
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