質の良い睡眠を知ると、生活の質が上がる?医師に聞いてきた

仕事で活躍してもっとキャリアアップしていきたい、家族との時間や余暇をもっと充実させたい。生活の質の上げ方は人それぞれの価値観やライフスタイルによって異なると思います。ですが、どんな方にも共通して言えることは、質の良い睡眠が日々の活力の源となること、ではないでしょうか?
質の良い睡眠を得ることで脳の疲れや身体の疲れが取り除かれ、日中の生活がよりイキイキとしたものになることでしょう。では質の良い睡眠とはどういう睡眠なのでしょうか。ここでは睡眠時無呼吸症候群診療歴10年以上の経験を持つAIC八重洲クリニックの手塚大介先生にお話を伺いました。
質の良い睡眠とは?睡眠の質を上げることはできる?
睡眠にとって大切なことは「寝つき」、「途中の睡眠状態」、「寝起き」、三つの要素がバランスよく保たれていることです。なかなか眠れない状態や途中で起きてしまう状態は睡眠のサイクルが狂ったり、睡眠の深さにも影響を与えたりします。寝起きに頭がすっきりしていることは質の良い睡眠の証拠です。
それでは、睡眠の質を上げることはできるのでしょうか? その答えはyesです。一番重要なことは、就寝時間が一定に保たれていることです。時間は日付が変わる0時前、シンデレラタイムを守りましょう。患者さんを診ていると、睡眠に問題のない方の多くは23時から0時に就寝し、睡眠時間も7〜8時間前後に保たれていることが多いです。要するに規則正しい生活習慣が最も重要である、ということになります。
もう一つ重要なことは、心身ともにリラックスすること。自律神経が最適な状態にあるときに、質の良い睡眠が得られます。社会生活を送っていく上で、ストレスは避けられないものですが、睡眠や自律神経機能にとってストレスは「大敵」となります。ストレスがあると気持ちが高ぶって、安楽な睡眠への導入を妨げてしまいます。
ストレスの処理を「ストレスコーピング」と言います。ストレスがたまってきているなと感じたら、休日に自分の好きなことをして、自分に「お水をあげる」ことが大切です。
ぐっすりと質の良い睡眠がとれていれば、起きた時に疲れがなく熟睡感があります。それには、適度な運動とバランスの良い食事を心がけるとともに、仲間とよいコミュニケーションをとり、日々のストレスを上手に処理することが何よりも大切です。
質の良い睡眠を知る前に、まずは睡眠の基礎知識を知りましょう。
睡眠の役割
睡眠は、身体を休ませることはもちろん、脳を休めるという大切な役割を担っています。脳は身体全体の消費エネルギーの20%以上と言われており、1日の中でもさまざまな働きをしています。なので、脳の働きにとって睡眠はとても大切な行為なのです。
2種類の睡眠
眠りには「ノンレム睡眠」、「レム睡眠」の2種類の睡眠があります。
ノンレム睡眠:身体や脳を休めて回復させる睡眠
レム睡眠:覚醒にむけて脳が活発的になる睡眠
車のエンジンが低速回転している状態をアイドリングと言いますが、レム睡眠はいわばアイドリングに近い状態と言えます。つまり、完全に深い眠りに落ちているわけではなく、いつでも覚醒できる浅い眠りの状態なのです。
近年、記憶の固定に重要な働きがあるのはノンレム睡眠といわれています。(『睡眠の科学』 櫻井武 講談社ブルーバックスより)。また、ノンレム睡眠とレム睡眠は、睡眠中に約90分周期で交互に現れます。ノンレム睡眠は浅い順に1から4段階に分けられるのですが、3〜4段階が深い睡眠です。一般的な睡眠の割合は、深い睡眠が全体の20%、レム睡眠が25%、残りが浅い睡眠になります。このバランスが保たれていると質の良い睡眠がとれていると言われています。
交感神経と副交感神経
質の良い睡眠には交感神経と副交感神経の働きが関係しています。身体の機能を最適な状態に保つ「自律神経」には、活動期に活発になる「交感神経」と、休息期に活発になる「副交感神経」とがあります。眠る前にリラックスすると副交感神経が優位になり入眠がスムーズになります。朝には交感神経活動が、夜には副交感神経の活動が高くなります。
人間は太古の昔から明るくなったら起きて、暗くなったら寝るというサイクルを持つ動物です。こんなにも夜に活動するようになったのは電気やランプが日常生活に入ってきたわずか200年ほど前からのこと。現代人のライフスタイルに応じて、夜は自分の好きなことに使う時間となって、睡眠時間はどんどん短くなり、心や身体に障害をきたす人も増えてきています。今一度、睡眠がどれくらい大切なのかを人間は考え直す必要があると思います。
寝ている間に脳では日常の記憶をデフラグ!?睡眠の効果は絶大
睡眠は身体だけでなく脳も休めるという話をしましたね。それでは、睡眠と脳の関係性についてお話したいと思います。脳は、寝ることによって私たちが日々吸収しているあらゆる情報を整理してくれています。
寝ている間に必要な記憶をすぐ取り出しやすいようにし、不要な記憶はタンスの奥にしまうという整理整頓をしているんです。これを私は「記憶のデフラグ」と呼んでいます。(デフラグとは、コンピューター用語で、パソコンに日々溜まり煩雑化していくさまざまなデータを整理することでパソコンの処理能力が低下しすぎないようにしてくれる機能のことを言います。)
コンピューターをデフラグすると保存されていたデータが整理されます。よく使うデータを前に、使わないデータを奥に保存してスッキリさせることでハードディスクの読み込み速度のスピードが向上します。
人間の脳も睡眠をとることで、脳がデフラグをしてくれるので、質の良い睡眠がとれていれば嫌なことがあっても、翌日にはすっきりするのです。これは試験勉強の際にも有効で、よく睡眠をとることで重要な記憶が引き出しやすくなります。睡眠と脳の記憶は、密接にかかわっているのです。
睡眠時間は長いほどよいは間違い?最適な睡眠時間の考え方
必要な睡眠時間は人によってさまざまです。長いほどよいというわけではありませんし、短時間で大丈夫な人もいます。短時間睡眠でもすっきりと目覚めることができるのなら、自由な時間が増えるのでメリットが多そうですが、誰もが短時間睡眠で大丈夫なわけではありません。
また、赤ちゃんから老人まで、年代によって必要な睡眠時間というのも違います。アメリカの睡眠学会が推奨している成人(26歳〜64歳)の平均的な睡眠時間は7〜9時間とされています。7時間寝ているのに朝起きた時に熟睡感が得られないのであればもう1時間長く寝てみるなどして、自分にとって必要な睡眠時間を見つけてみるのもよいでしょう。
年代別 推奨睡眠時間(国際睡眠学会調べ)
- 新生児(0〜3ヶ月):14〜17時間
- 幼児(4ヶ月〜11ヶ月):12〜15時間
- 幼児(1〜2歳):11〜14時間
- 幼児(3〜5歳):10〜13時間
- 小学生(6〜12歳):9〜11時間
- 中〜高校生(13歳〜17歳):8〜10時間
- 大人(18歳〜64歳):7〜9時間
- 大人(65歳〜):7〜8時間
ただ、睡眠はあくまでも日中の活動を充実させるための手段であり、目的ではありません。十分な睡眠をとることが目的化して、絶対に7時間睡眠をとる!などとこだわりすぎると、眠くもないのに就寝してかえって寝つけなくなったり、早く目覚めたのに無理にベッドに居続けようとして睡眠の質を下げる原因になりかねません。質の良い睡眠をとるためには、睡眠の時間にこだわりすぎないことも大切です。
睡眠の質を上げる方法①生活習慣
毎朝決まった時間に起きて太陽の光を浴び、日中に十分な活動をすることが基本です。平日も休日と同じように生活しましょう。平日に睡眠時間が足りていないために、休日に寝だめするのが習慣となっている人も多いと思いますが、寝だめはリズムを崩してしまうのでNGです。
また、人の身体は夕方から夜にかけて体温が上昇し、その後寝るまでに徐々に体温が下がることで入眠するようできているのですが、就寝1〜2時間前の深部体温の下がり方が急であるほど睡眠の質は上がります。このためには、お風呂で湯船にしっかりと浸かることがポイントとなります。
入浴することで深部体温が急激に上げるので、その後体温が急下降しやすくなり、睡眠を誘う効果があります。入浴のタイミングも重要で、就寝の30分〜2時間前に入るのがベストです。夏は38〜40度、冬は39〜41度くらいのぬるめのお湯に浸かって20〜30分ゆっくりリラックスしましょう。
睡眠の質を上げる方法②食べ物
睡眠の質を上げる食べ物というのは特にないのですが、質の良い睡眠のためには食事のとり方や注意すべき食べ物などはあります。バランスのよい食事を3食きちんととること、そして夜寝る2〜3時間前までには夕食を済ますことが睡眠にとっては大切です。胃腸が盛んに働いている間は深く眠れないからです。そして、消化のよい野菜や炭水化物を中心にとるようにして、タンパク質や脂肪分は控えめにするとよいでしょう。睡眠中は胃腸も寝ているので休ませてあげることが大切です。
コーヒーや紅茶などに含まれるカフェインは、覚醒作用があるので一般的に就寝5時間前には避けるようにしましょう。アルコールはたくさん飲むと寝つきはよくなりますが、アルコールが分解される睡眠後半になると、交感神経の活動が高まり睡眠の質を低下させる恐れがあります。
体が冷えて血管がうまく循環しないので、血管が詰まる可能性もあります。動脈硬化のリスクもあるので睡眠前に関わらず、一度にたくさん飲むことはおすすめしません。カフェインと同じく量は控えめにしましょう。また、落ち着くからといってタバコを吸う人もいるかもしれませんがもってのほかです。タバコは身体によいことは一つもありません。
睡眠の質を上げる方法③寝具
睡眠の質を上げるために寝具を見直すことも大切です。特に枕は自分に合ったものを選ぶと劇的に睡眠の質が変わってきます。私自身もつい先日、枕を買い替えたのですが、少し柔らかめの枕に変えたことで今までよりも心地よく入眠することができています。抱き枕もおすすめです。横向きやうつぶせ寝は寝ている時に呼吸がしやすいので、睡眠時無呼吸症候群になるリスクも下がります。マットレスも大切ですね。
寝返りがきちんとできるマットかどうかが重要となります。人は寝ている間に20回ほど寝返りをします。寝返りには体液の流れをよくして疲れをとる役割があります。睡眠中、酸素や栄養が血液とともに身体の隅々まで運ばれます。リンパ液によって老廃物が回収されて疲れが取れるのですが、寝返りをせずに同じ姿勢のままでいると敷布団との接触部が鬱血して血液の流れが妨げられます。質の良い睡眠のためは寝返りがしやすいマットはとても大切というわけです。
睡眠の質を上げる方法④就寝前に刺激のあるものを見ない
快適な睡眠に光は大敵です。特にスマホやゲームなどのブルーライトは頭を覚醒させてしまう働きがあります。また動画などやゲームでは、視覚による刺激が頭に入ることで交感神経を賦活化させ、頭の中が昼間に逆戻りにしてしまう作用があります。快適な睡眠を得るには、脳が眠ることを阻害してしまうようなスマホを見る、ゲームをするなど行為は避けることが大切です。読み出したら面白くて止まらないような本なども大敵でしょう。これをやったら眠れないなあ、と思われるようなものは最初から枕元に持ち込まないように心がけてみましょう。本を読むとうつらうつら眠れるという人であれば睡眠薬代わりに読むことは問題ありません。
質の良い眠りに導くためのストレッチ
寝返りがしやすい身体を作るためには筋トレも有効です。寝返りや体温調整をスムーズに行える身体作りにおすすめな「ヒップリフトエクササイズ」をご紹介します。これを1日に5回程度行うとよいでしょう。
ヒップリフトエクササイズとは?
① 仰向けに寝て足を肩幅に開き、膝の角度を90度に曲げる。
② 頭から背骨にかけて身体がまっすぐになるように注意しながら5秒かけて膝と肩が一直線になるまで腰を持ち上げる。
③ ②の姿勢のまま5秒間キープし、5秒かけて元の位置に戻る。これで1セット。これを1日に5回程度行う。
日中にまとまった運動がなかなかできないという方でも、これくらいの運動であれば試すことができそうですね。仕事などで日中は難しい方でも家に帰ってからお風呂に入ったあとなどに取り入れてみてください。
スムーズな入眠を助けるためのグッズ紹介
睡眠を充実させるアイテムはたくさんあります。音がうるさくなければ耳栓は有効ですね。外での道路工事の音はもちろん、エアコンの音やマンションでの上の階の足音など、少しの音だけでも気になって眠れない人も多いようです。外からの光が気になるという方は、遮光カーテンなどを検討してもよいでしょう。
最近の遮光性の高いカーテンであれば日中の強い太陽光でもかなり遮ってくれる効果があります。遮光カーテンなどで部屋が暗くなりすぎるのに抵抗があるという方には、アイマスクも効果があると思います。あとは枕カバーやシーツ、パジャマなど、自分にとって心地よいと思える素材などに変えてみるのもおすすめです。
質の良い睡眠を得るためのおすすめアイテム
- 耳栓
- アイマスク
- 遮光カーテン
- レッグウォーマー
- 心地よい枕カバー
- 心地よいシーツ
- 心地よいパジャマ
こんなときは病気や不眠症を疑った方がよいかも?
夜中に何度も起きてしまうときは、病気が関係している場合があります。例えば、ご高齢の男性であれば泌尿器系の問題が出てきやすくなります。前立腺に問題があり、おしっこが溜まって何度もトイレに行きたくなることも。ほかにも就寝はしているのにまとまった睡眠がとれず、2〜3時間おきに起きてしまうといったお悩みを抱えている場合、過度のストレスが原因の可能性があります。
緊張状態が続き、寝られないという人は本当に多いんです。そういう人はストレスを解消する必要があるので、土日など休みの時に自分の好きなことをやるなどリフレッシュする時間を作ってください。
休みの時にはなるべく仕事のことを考えず、別の世界を作ることが大事です。それでも改善しない場合は医師に相談してみてください。状況によっては精神安定剤を処方します。寝られないからといって寝酒をするかは、薬によってきちんと治療する方が好ましいと思います。また、仕事の問題が深刻な場合には会社に相談して、部署異動や労働時間を減らしてもらうなど、自分の身を守ることも大切です。
質の良い睡眠を妨げる睡眠時無呼吸症候群とは?
僕は睡眠時無呼吸症候群の患者さんを数多く診てきましたが、自分が睡眠時無呼吸症候群だということに気づかない人はとても多いんです。睡眠時無呼吸症候群とは、仰向けに寝ているときに舌が下がって喉の奥をふさいでしまい、口で呼吸ができない状態になることです。
舌根沈下(ぜっこんちんか)というのですが、主に肥満の方がなりやすい病気です。太っていなくても、小顔の方、また喉の穴(咽頭腔)も気をつける必要があります。とはいえ、自分の喉が大きいか小さいかは自分では比べようがないと思うので、医師に診てもらうのがおすすめです。
また、いびきをかいてしまう方は睡眠時無呼吸症候群のサインでもあると思ってください。いびきは舌根沈下で気道が狭くなり、空いた隙間から息をするのでズズ〜っという音がするのです。もしいびきが多いのであれば、病院で睡眠時無呼吸症候群の検査を受けてみてください。きちんと治療することで睡眠の質を上げることができるようになりますよ。
いかがでしたか? 質の良い睡眠を得るには、まず睡眠の基礎知識を知ることから始まります。そして、睡眠に入る最初が肝心なので、生活習慣を正して心地よく入眠できる環境に整えましょう。
毎朝決まった時間に起きて、きちんと3食ご飯を食べ、お風呂でリラックス。本来ならば、みんなが普通にできているはずですよね。忙しい現代人にとっては「普通の生活習慣」が意外と難しかったりもしますが、質の良い睡眠は努力次第で誰もが手に入れられるもの。今年はこれまでの生活習慣を見直して、睡眠の力で生活の質をアップさせましょう!
文/横田可奈
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医学博士、AIC八重洲クリニック循環器内科科長
手塚大介(てづかだいすけ)
東京八重洲にある「AIC八重洲クリニック」の診療科目は放射線科(MRI検査・CT検査・超音波検査・マンモグラフィ検査・X線レントゲン)、循環器内科、精神科、乳腺外科。現在は常勤医11名、非常勤医96名にて診療。手塚氏は循環器内科専門医として一般内科、循環器内科診療の他、睡眠時無呼吸症候群外来を担当。睡眠時無呼吸症候群外来の診療歴12年の経験を活かし、眠りに関する悩みを抱える患者に症状をわかりやすく丁寧に解説。優しく気さくな人柄も評判。
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