寝だめは無意味?! 睡眠負債の解消法とは

睡眠不足が蓄積することを、借金に例えて睡眠負債と呼びますが、睡眠負債が膨らむと、さまざまな病気を引き起こす原因になるとも言われています。「日本人の睡眠時間は、年々短くなっている」と話すのは、精神科医であり産業医の穂積桜(ほづみさくら)医師。ビジネスパーソンの睡眠の悩みに関して、産業医の立場から数多くアドバイスを行っている穂積先生に、睡眠負債についてお話を伺いました。
睡眠負債、日本人が世界一に!?
厚生労働省の調査によると、1日の平均睡眠時間を6時間未満だと答えた成人男女は、2007年では28.4%と3割未満だったのに対し、2015年では39.5%と4割近くに増えました。「昨年、活動量計を開発・販売するポラール・エレクトロ・ジャパンが、同社の製品で測定した睡眠データを元に世界各国のユーザーの平均睡眠時間を調べ、日本が主要28カ国の中で、最短だったという調査結果を発表しています」と穂積医師。
世界の平均値が7.07時間であるのに対し、日本は、男性が6.30時間、女性が6.40時間と最低数値であったとのこと。まさに、日本人はもっとも眠りの少ない国民となってしまっているのです。
日本人の4割近くが6時間未満の睡眠時間とのことですが、「6時間ぐらいの睡眠だと、眠気はある一定で頭打ちになります。眠気がそんなにないからといって、睡眠が足りていないわけではありません。脳の反応を計測する実験をすると、6時間睡眠を続けている人は、8時間睡眠の人に比べて反応が鈍く、作業パフォーマンスが落ちているのがわかります」と穂積医師。
アメリカでの大規模な研究によると、7時間睡眠の人が一番長生きすることが報告されています。例えば5時間睡眠の人は、平日2時間ずつ負債をため込んでいることになります。そしてそれが何年も続くと、健康を害すことにつながってしまうのです。
「睡眠負債は、心筋梗塞や脳卒中、糖尿病などの生活習慣病や、認知症を発症するリスクがあがるというさまざまな研究報告が上がっています」と穂積医師。
「例えば、高血圧については、日本人の成人男性4,794人を対象にした4年間の調査で、不眠症があると高血圧のリスクが約2倍になることがわかりました。たったの4年間でリスクが倍にも増える。糖尿病に関しては、2,649人の日本人成人男性を8年間追跡調査した結果、入眠障害のある人は、糖尿病の発症リスクが約3倍になりました」
また、睡眠時間が足りないと、食欲を抑えるレプチンが減少し、食欲をUPさせるグレリンが増えてしまうため、肥満にもつながるとのこと。さらに、睡眠負債がたまることで、自分で気がつかないうちに注意力や記憶力も落ちて、反射神経も鈍くなります。
寝だめでは、睡眠負債は解消されず
「仕事でさまざまなミスを犯しがちになるので、社員が睡眠負債を溜めることは、企業にとっても大きな損失となります」と穂積医師。日本人は、寝る間も惜しんで仕事や勉強をすることが、美徳だと思われがちです。働き方改革が叫ばれているにもかかわらず、「平日は、なかなか仕事を早くに切り上げられなくて…」という人も少なくありません。
睡眠不足を自覚している人は、それを補おうと週末に寝だめをすることも多いようですが「睡眠不足が蓄積した睡眠負債は、週末の寝だめでは解消しないことがわかっています」と穂積医師。
「2003年にアメリカで発表された研究報告に、寝だめをして睡眠負債が解消するかどうかを調べた結果が示されています」と穂積医師。調査では、3時間、5時間、7時間、9時間の睡眠をとる4つのグループを作り、7日間それぞれの時間で睡眠をとってもらい、毎日、注意力を測定するテストが行われました。その調査結果によると、睡眠時間が少なければ少ないほど、日を追うごとに注意力が低下。
特に、3時間睡眠のグループは、急激に注意力が低下していきます。その後、すべてのグループに8時間睡眠を3日間続けてもらい、同様に注意力を測るテストを行いました。すると、睡眠時間が7時間以下のグループは、短時間睡眠が終わって3日経っても初日の注意力には戻らないことが明らかになったのです。「つまり、1週間で溜まった睡眠負債を週末で取り戻そうと睡眠時間を増やしても、その効果がないことがわかったのです」(穂積医師)
睡眠不足による、心の病気に要注意!
週末、寝だめをしたせいで生体リズムが乱れて体内時計がずれてしまい、月曜日の朝に起きるのがつらくなってしまうことも珍しくありません。寝だめでは、睡眠負債は解消しないので、毎日の睡眠時間を少しずつ増やすことを考えるべきなのでしょう。まず、自分に適した睡眠時間を知ることが大切なポイントだと思われます。何時間寝たときがスッキリ目覚められて、昼間の仕事のパフォーマンスがよいのか、自分で実験だと思って3日程度でいいので調べてみましょう。
短い睡眠時間は、精神的な不調にも通じます。「4時間半を切る睡眠時間を5日続けただけで、脳の扁桃体という、恐怖や不安を感じる働きをする部位が、活性化されることがわかっています。つまり、睡眠不足でイライラしたり、被害的になったり、気分が落ち込みやすくなります」と穂積医師。
睡眠負債には、少しでも早い対策を!
心と身体の健康に大きく影響する睡眠負債。とにかく、日々の睡眠時間の確保が重要となるわけですが、どうしてもそれがとれないときはどうしたらよいのでしょうか。
「昼間の時間に仮眠がとれるのであれば、午後の時間で3時ぐらいまでの間に20分程度寝るのが効果的です」と穂積医師。とはいえ、会社勤めだと、なかなかそれは難しいことなので、やはり、睡眠時間の見直しを図るのが先決です。とりあえず、いつもより少しでも早く寝ることを心がけましょう。
スマホなどを使いたければ寝る直前ではなく朝起きてから使うと、夜中の睡眠の質が上がり、朝は目に光が入り覚醒しやすくなります。さらに、睡眠の質を上げる為に、寝室の温度や湿度、部屋の明るさなどにも気を配るとよいでしょう。
睡眠負債は、知らずのうちに心と身体の健康をむしばんでいきます。人生100年時代に突入した社会で長く健康的にエンジョイするために、自分の睡眠について振り返ってみましょう。7時間前後の睡眠が望ましいとされていますが、必要睡眠時間には個人差があります。
まずはあなたの快適睡眠時間を見つけて、この数値に足りていない人は、毎日のように負債を増やしていることを忘れずに、早めに対策を講じましょう。
取材・文/仲尾匡代
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株式会社MEDICIO 代表取締役
穂積桜(ほづみさくら)
日本医師会認定産業医 、精神科専門医、漢方専門医、臨床心理士。札幌医科大学医学部卒業。札幌医科大学医学部附属病院神経精神科 東京都立松沢病院等において精神科医として勤務。国立病院機構東京医療センター、北里東洋医学総合研究所において、内科、東洋医学の知識を幅広く習得後、人事労務、法律の知識を併せ持つプロフェッショナル産業医として活動している。
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